⑤「研究室バックレ」リスクを数値化する

「逃げ癖と研究室不登校」シリーズ第5回。初めての方は第1回からどうぞ。第4回にて逃げ癖の診断の難しさについて触れましたが、今回私は専門家でないのにも関わらず傲慢にも、研究室不登校のリスクを数値化する「研究室バックラー指数評価テスト(BIETLS)」を提案します。

 

「研究室バックレ」を事前に予測したい

 

逃げ癖や研究室不登校のリスクの定量化が困難な現状を踏まえ、私は少なくともWeb上の大して役に立たない性格診断よりはマシなバックレ指標を作ってみようという考えに至りました。「バックレ」という言葉をもじって、仮にこれを「研究室バックラー指数評価テスト(BIETLS : Backler Index Evaluation Test for Laboratory Student)」と名付けます。本来「バックレ」という英語はないのですが、語感の良さから無理やりそれっぽくしました。

BIETLSの最大の特徴は、評価項目を可能な限り「特定の経験がどれほどあるか」という定量的な問題に限定していることにあります。これによって、記憶に誤りがない限り、あるいは新たな逃避行動を積み重ねない限り、常に同じ結果が出るようになります。したがって、その時の気分やテストに関する事前知識によって結果が変わることがありません。

研究室不登校に陥るかどうかを予測するというニッチな目的のためには、主観的に自分の性格を考える既存の方法よりも、実際にヤバい状況(=研究室不登校)に陥った人と似通った体験をこれまでどれほどしているかをみる方が、自らの向き不向きをより身近に感じられるでしょうし、行動変容を促すきっかけとして役立つのではないかと私は考えています。

また、なるべく「特異度が高い」と思われる質問に限定し、質問数を増やしすぎないようにしました。なお、特異度*1とは医学でよく使われる用語で、「その疾患にかかっていない人を、正しく疾患にかかっていないと判定できる確率」のことであり、「特異度が高い」ことは診断の確定に有効です。コロナのPCR検査で検査精度が話題になりましたので、知っている方もおられるでしょう。BIETLSでは「研究室不登校」以外のあらゆるトラブルでも見られそうなことを、できる限り避けることを心がけました。もちろん、私の経験のみから突き詰めるのは不可能ですし、できる限り高校生・浪人生以下でも答えられる質問を増やしたいので、ある程度特異度を犠牲にしています。

余談ですが、「バックレ」の語源は「しらばっくれる(知っていながら知らないふりをする)」であるそうです。私達は逃げることで生じる不利益を考えればわかるはずなのにあえて考えようとしていないという点で、確かにそのとおりであると言えます。

 

注意事項

 

言うまでもありませんが、医学的・学術的根拠は全くありませんので、性格診断程度のノリで受け止めていただきますようお願いします。あまりに困った状況にあるなら、とにかく精神科医スクールカウンセラーに相談が1stです(心の底ではそれで私達の問題が根本的に解決されるとは思っておりませんが、自己弁護のため明記しておきます)。

また、本テストはいじめやDVなど明確な外的要因が存在することは想定していませんので、参考にもなりません。ここでいう「逃げ癖」とは、ちょっとしたきっかけから始まり、気付いたら「逃げ」の選択を繰り返すようになっていたという状況であると考えており、上記とはベクトルが異なります。要するに、自業自得だとみなされやすいものだと考えてください。

では上記の注意事項を踏まえ、興味のある方は少しばかりお付き合いください。

 

研究室バックラー指数評価テスト(BIETLS)

 

このテストでは人によって回答できる問題数や最高得点が異なります。少し面倒ではありますが、メモアプリやペンを用意して「実際の得点」と「各問題で自分がとり得る最高得点」の2項目を記録してください。テストの後に解説を付けていますので、もしわかりにくい質問があった場合には後で確認して再度回答してください。

  1. 小中高時代に明確な理由なく、学校をサボった回数【最高20点】
    • 0回【+0点】
    • 1~5回【回数に応じて(+1) ~ (+5) 点】
    • 6~10回【+10点】
    • 10~14回【+15点】
    • 15回以上【+20点】
  2. 小中高時代に明確な理由なく、修学旅行や文化祭、運動大会、卒業式などの学校行事に参加しなかった回数【最高20点】
    • 0回【+0点】
    • 1~4回【回数に応じて(+4) × (回数) 点】
    • 5回以上【+20点】
  3. 上記2つの質問で、学校や学校行事に参加しなかったときの過ごし方【最高5点】
    • 一人で過ごすことが基本【+5点】
    • 同様に参加しなかった友人など、気が合う人と会うことの方が多かった【+2点】
    • ともに0回なので回答できない【+0点】
  4. 中高生時代に部活をバックレて辞めた経験【最高15点】
    • ない、または学外の習い事などの正当な理由で部活に入らなかった【+0点】
    • 明確な理由なく、部活に入らなかった(ただの帰宅部)【+7点】
    • あるが、その後別の部活に入り直し、きちんと今まで参加している(または引退まで参加した)【+10点】
    • あるし、その後部活にきちんと所属することはなかった【+15点】
  5. バイトや習い事をバックレて辞めた回数【最高0点または15点】
    • 0回【+0点】
    • 1回【+10点】
    • 2回以上【+15点】
    • バイトも習い事もしたことがない【この質問を評価に加えない】
  6. 先輩や年長者と協力して課題・グループワーク・部活の発表会等の大きなイベントを最後まで終わらせた経験【最高10点または15点】
    • ある【+0点】
    • 中高時代までで一度もない【+10点】
    • 大学に入った後ですら一度もない【+15点:大学生以降のみ】
  7. 先輩や年長者から個別に食事や遊びなどに誘われた経験【最高5点または10点】
    • ある【+0点】
    • 中高時代までで一度もない【+5点】
    • 大学に入った後ですら一度もない【+10点:大学生以降のみ】
  8. 勉強で解けない問題や分からないことがあったときにどうしたことが最も多いか【最高10点】
    • 授業中あるいは授業直後の教室で先生に質問した【+0点】
    • 後日、1対1の個別指導の機会や家庭教師などに質問した【+5点】
    • 仲の良い友人に聞いた【+5点】
    • そのまま放置した【+10点】
  9. 部活やグループ活動などで、同期と仲良くなれずに短期間(~3ヶ月程度)でやめた経験【最高10点】
    • 0回【+0点】
    • 1回【+5点】
    • 複数回【+10点】
  10. 留年・浪人などにより、歳下と同学年にいる【最高5点】
    • その通り【+5点】
    • 違う【+0点】
  11. 授業で自分の当てられそうな範囲は、事前に独力で取り組んでいた(できるできないに関わらず)【最高5点】
    • その通り【+5点】
    • 違う(出来の良い友人に聞く、やらずに臨んで先生に怒られるなど)【+0点】
  12. うつ病など精神疾患の診断テストを検索し、試してみたことがある【最高10点】
    • その通り【+10点】
    • それはないが、性格診断テスト(MBTIなど)ならある【+5点】
    • どちらもない【+0点】
  13. 学内・学外問わず、何らかの課題に対して自分で立候補してリーダーとなった経験【最高10点】
    • 複数回ある【+0点】
    • 1回ある【+5点】
    • 全くない【+10点】

以上で終わりです。「合計得点」および「得点率(=合計得点/取り得た最高得点)」を計算してください。すべての問題に回答した場合、高校生・浪人生までは140点満点、大学生以降は150点満点となります。高いほどヤバいです。

 

各質問の意図

 

(1 ~ 5) バックレ経験の有無

これは不登校に限らずあらゆることに言えることだと思いますが、ある物事を起こす最大のリスク因子はその物事を以前起こしたことなのではないでしょうか。留年のリスク因子は留年ですし、退職のリスク因子は退職です。したがって、バックレ経験の有無に関する質問数やその得点配分の比重をかなり大きくしています。特に(1)と(2)は、学校側から通常必ずこなすよう指定されているものから逃げている状況であり、「研究室不登校」との親和性が高いものですので、全ての質問の中で最も重要であるとします。

(3)に関して、バックレそのものもまずいですが、その時の鬱憤を共有できる相手がいないことは更にまずいです。

(4)に関して、「部活のバックレ」とは顧問・同期・先輩などとのコンタクトをきちんと取らずに、一方的に参加を拒否し、うやむやのまま辞めたものであるとします。また、「ただの帰宅部」は自主性が皆無であることを如実に表しているので、割とリスク因子だと考えています。

一応補足ですが、「明確な理由」とは身体的不調や家庭の事情などです。面倒くさかった、居心地が悪かった、仲の良い友人と別になってしまったなどの理由であれば、点数として加えます。

 

(6 ~ 8) 上の人とコミュニケーションをうまく取れるか

第3回で記述したとおり、研究室に入った当初のあなたは何も出来ないに等しく、文献・実地調査なり、実験なり、プログラミングなり、教員や先輩のアドバイスを乞うことは不可欠です。これまで部活や委員会、サークルなどで、共通の目標に向かって協力して成功させた経験がある方はその一連の流れを身体で覚えていることでしょう。そうでない方は適応に懸念が生じます。食事などの機会を通じ、フランクなコミュニケーションができることも重要です。

また(8)に関して、解決が難しい問題はさっさと年長者に質問するのがベストです。友人と話し合うことはただの宿題では良くても、研究ではそれぞれ別のテーマが割り当てられるので好ましくありません。1対1の機会を待つのも得策ではありません。そして、質問できずに放置するのは、研究で詰む流れとしてはかなり頻度の高いものであると推測されます。一見「研究室不登校」に関係なさそうに感じられますが、非常に重要な問題ではないかと個人的には思います。

 

(9) 同期とすぐに打ち解けることができるか

教員や先輩とうまくやれないことが最も問題ですが、同期と(表面上であっても)仲良くできなければ、研究室の居心地は格段に悪くなってしまいます。なかなかこの部分はピンポイントで問題を洗い出す質問を考案できなかったので、このようにややあいまいになってしまいました。なお、通常の「バックレ」とは異なり、連絡なしで突然消えることに限定しません。

 

(10 ~ 11) 羞恥心

(10)は質問の意図がよくわからなかった方もおられると思います。「逃げ癖」の大きな要因として「恥」の感情があるのはご存知のとおりですが、歳下だらけの環境で落ちこぼれることは、ただ単に同い年に負けるよりもはるかに「恥」の感情を高めやすいのではないかと考えました。本質問では身体的不調なども含めいかなる理由であっても、点数を加えることとしてください。

(11)もかなりふわっとした質問ですが、学校における「恥」の場面として最も想定しやすいものですので加えました。「研究室不登校」となる人は、恥を回避するための努力をしっかり行うのではないかという考えに基づいています。なお、困ったときに頼りにできる友人がいたかという側面も含まれています。

 

(12) 「メンタル系」への関心

診断テストの点数自体はそこまでの価値はないと思います。しかし、既に精神疾患に対して興味を抱き、知識を得ようとしている時点で、普通の人のように困難な事態を「気の所為」だと思って踏ん張ることは難しくなるでしょう。無論、医師や心理カウンセラーを検討している方は経験があるかもしれませんが、一応点数に加えてください。

 

(13) 主体性

卒業研究と言えど、自分に与えられた領域に関してメインで進めるリーダーとなるのは自分です。自主的に物事に取り組む性格がある方はうまくいきやすいでしょう。じゃんけんなどで不本意にリーダーになったというのは除きます。

 

感想

 

さて、結果はどうでしたか?ちなみに私は合計得点が135点で、得点率が135/150 = 90%でした。点数配分から考えても、普通の人ならそれほど得点を重ねることはないはずで、50%もいっていたら相当まずいと思います。さらに私くらいの高得点・高得点率であれば、もうどうしようもありません。そのような方は進路選択の際に、世間一般の評判や周囲のまともな人の助言を参考にしすぎると、自らの未来が暗いものになることが懸念されます。ぜひ社会不適合にもほどがある自らの性格についてここで振り返り、今現在目指している進路が本当に自分に適してるか、今一度考えてみてはいかがでしょうか

なお、本テストについてご意見・ご感想があればぜひご連絡ください。あくまで私の経験とフィーリングにしたがって決めているので過不足は必ずあるでしょうし、当然ながらデータがないので統計学的な分析は一切できません。今後改変することもあるでしょう。今現在困っている方はもちろん、私と同様に逃げ癖と研究室で人生が一気に暗転した方のコメントも歓迎します。

 

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