③なぜ逃げ癖のある学生は研究室に所属してはならないのか

「逃げ癖と研究室不登校」シリーズ第3回。初めての方は第1回からどうぞ。今回は本シリーズのメインテーマであり、とても重要です。

 

逃げ癖のある人にとって、「研究室配属」が人生における最大の鬼門となりうる

 

今までに逃げた経験が複数ある方は、既にどのような状況で辛くなるかなんとなく分かっていると思います。研究活動とはそのような状況の強化版フルセットだと思っていただいて構いません。つまづくポイントを以下に列挙します。

  1. 主体的に新しいことに挑戦し、失敗を積み重ね続けなければならない
    • やるべきことについて明確な指示がほしい人、失敗を気にして引きずってしまう人には向かない
  2.  既に出来上がっている狭いコミュニティに入らなければならない上、そのコミュニティは世間一般から一歩ずれた人々で構成された特殊なものである
    • 新しいコミュニティに溶け込むのが苦手な人には向かない
  3. 多数の聴衆の前で発表しなければならない上、その聴衆の方が自分より優れているので、公衆の面前で批判を受ける機会が非常に多い
    • 恥をかくことが何よりも耐えがたい人には向かない
  4. 下っ端として教えを乞わなければならない立場だが、自分からは何も提供することができない
    • 相手への負担を必要以上に気に悩んでしまう人には向かない
  5. 研究はテーマ設定などかなりの部分で運の要素に左右されるため、自分よりも出来が悪そうな人、自分よりも努力していないようにみえる人が先に進むこともザラにある
    • 自分と他人を比較して落ち込みやすい人には向かない
  6. 研究はうまくいったところで大したリターンはなく、むしろ将来のための就活や勉強の妨げになる
    • 目に見える利益や成果がないと頑張れない人には向かない
  7. 特に卒業研究の場合、逃げ切ってしまうと(=中退すると)高卒扱いになり、その後の人生に与えるダメージが尋常ではない
    • これまでは「逃げる」という選択肢を取っても別の方法で挽回することができたが、研究室配属ではこれを封じられる
    • 【補足】例えば、高校中退は高認を目指す選択肢がありますし、仕事を辞めたとしても若者でかつ選り好みしなければ次の仕事はみつかるでしょう。これらの場合はたとえ逃げたとしても、「大学に進学する」や「収入を得る」といった本来の目的を果たす迂回路が一応は存在します。一方で研究室からの「逃げ」では、当初の目的(学位を取得する・大卒が条件の高待遇の仕事に就くなど)を達成することはできません。

あなたが大学に入りたいと思っている(あるいは入った)理由は何ですか?皆さん外向きには立派なことを言いがちですが*1、何か一つだけ本音で理由を挙げるとすれば「大卒でないとその後の就職や人生の可能性が狭まる」からではないかと推測します。なかには深く考えずに「人生の夏休みを謳歌したい」からという俗っぽい理由の方もいるかもしれません。それはそれで良いでしょう。どのような理由にしろ、あなたが「研究者」になりたくてなりたくてたまらなくて、それ以外の道を考えていないというのではない限り、研究室にわざわざ入ることの直接的なメリットは存在しません。

あなたがもし逃げ癖のない普通の人であるならば、科学的・批判的思考力を養えるとか、プレゼンスキルを身に付けるといったゆるふわな理由で入っても、そうそう脱落しないので問題ないのかもしれません。しかし、何度でも繰り返しますが、逃げ癖のある私達にとって研究室は至るところに地雷が埋められている危険地帯であり、自らの可能性を広げてその後の人生の幸福の期待値を高めるという大学進学の元々の目的のためには、そもそも研究室に入らないという選択肢を取る方がはるかに手っ取り早いのです。

いやいや自分はそんなのに当てはまるような根性のない情けないヤツではない、と思ったあなた。あなたのためにちょっとしたテストを用意したので、第5回までは我慢してください。私自身、研究室に入る前に同じ言い方をされたら、多分否定していたと思います。

 

逃げ癖のある学生は今何を考えるべきか?

 

あなたの現在の状況に応じて、これからの身の振り方を簡単にご提案します。

  • 高校生・浪人生まで:研究室配属が必須ではない学科に進学しましょう。進むべき学科については第9回にて考えます。
  • 大学1, 2年生:不用意にも卒論が必須の学科に入ってしまった場合は、転学科を検討しましょう。特に東大や北大総合入試など、入学時に専攻科を定めない一部の学科に入ったあなたはツイていると言えます。
  • 大学3, 4年生:もう研究室配属から逃れることはできないでしょうから、少しでも死ぬリスクを減らすため、ブラックではない、こなすべきタスク・スケジュールをはっきり決めてくれるなど、多少なりとも逃げ癖のある人に適した特徴のある研究室を選択しましょう。当然大学院には進学せず、就活を優先です。もし可能であれば、降年して転学科することも検討しましょう。なお、研究室の選び方についても、第9回にて考えることとします。
  • 大学院生:研究室をサボって就活を全力で行い、内定をもらい次第中退し、学部卒扱いで入社しましょう。学士を取得している分逃げるという選択肢を取りやすいので、大学3, 4年生よりはマシです。しかし、その状況に甘えてダラダラと研究室不登校を続けていると、どんどん社会復帰が困難になってきます。

 

逃げ癖のある学生の基本戦略

 

逃げ癖を治せるなどとは思ってはいけません。たとえ運良く自分に適する環境に入ることができて、今は逃げ癖が治ったように感じられていたとしても、環境の変化次第で容易にぶり返すでしょう。特に若いうちは、望む望まないに関わらず、毎年のように置かれる状況が変化します。あなたの逃げ癖は脳の不可逆的な障害による不治の病であると考えて、とにかくリスクを最小化する生き方を心がけるべきです。「失敗を恐れるな」だの「世界を目指せ」だの言って、理性的な判断を困難にさせてくるお偉い成功者の方々(大学の教授がまさにその典型例)は、逃げ癖のあるあなたの明確な「敵」です。

私達にとっては、「逃げ道を確保すること、逃げられない状況を回避すること、逃げても詰まない進路を選ぶこと」が何よりも重要です。大学での数年間は、使えるお金と時間のバランスが最も良い時期です。このメリットを存分に活かしましょう。

結論から申し上げると、私達にとって最も好ましい生存戦略は、社会における需要の高い業務独占資格を取得し、とにかく身体的にも精神的にも社会的にも詰みにくい状態に持っていくことであると私は考えています。この件は第6回から詳細に解説します。

 

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